パール
基礎知識 パールの種類 パールの構造&形成 パールの養殖

パールの養殖

養殖パールの歴史

パールの養殖は、ヨーロッパの多くの学者が取り組んできた課題でしたが、遂に日本が独自に成功をおさめました。

1896年、御木本幸吉氏によって半形真珠が生まれました(特許第2670号)。その十数年後、「真円真珠」がこの世に登場しました。(西川藤吉氏(1907年出願)、見瀬辰平氏(1917年出願)、御木本幸吉(1918年出願)がその代表的特許です。)

※日本がパール養殖に適しているのは、寒流と暖流が合流するところで、貝の餌となるプランクトンが湧きやすいからです。特に日本の海水産パールは、海水低温度とその低温に耐えられる貝の質によって、表面のキメこまやかさが特徴です。


養殖パールの原理
天然真珠は、貝の体内に入った異物を真珠層が包み込むという貝の生理作用で生まれます。海水産養殖真珠は、この天然の異物の代わりに、貝殻を丸く磨いたもの(核)を使用し、「ピース(外套膜片)」と一緒に貝の体内に挿入します。ピースは一緒に入れた核に沿って成長し、遂に核全体を包み込んでしまいます。こうして真珠袋の完成です。この真珠袋が真珠を作り出すのです。

球状の核を入れるのは、球状の真珠袋、つまり球状のパールをを作るためで、形にこだわらなければ核を入れる必要はありません。

一方、淡水パールの養殖の場合は、ピースだけを母貝に挿入して真珠層を巻かせるのがほとんどです。


パール養殖の工程(アコヤ貝)
母貝の確保
&育成
かつては海女がもぐって貝を採取していたのですが、現在は以下の二つの方法で貝を大量に確保しています。

@「天然採苗(てんねんさいびょう)」

アコヤ貝は海中で受精します。受精卵は稚貝となって約15〜20日間海の中で浮遊生活を送り、本来の付着生活に入ります。その時に杉の葉などを海中に入れると、稚貝はそれに付着するので、大量の稚貝が採取できるのです。

A 「人工採苗」
貝の雄と雌を水槽に入れ、その中で受精させます。厳密な海水のろ過、えさとなるプランクトンの大量確保が必要となります。付着期以降の育成は海で行われます。

★母貝の育成
稚貝かごに並べて筏(いかだ)に吊るし、大きくなるに従って、サイズによる選別をしながら、約2年間養成します。プランクトンが多く、潮の流れの良いことが条件で、水温は夏25度が最適で、冬期は15度以上のところが好ましいとされています。


仕立て

核を入れることは、貝にとっては大変な刺激と苦痛で、死亡や脱核などを伴ってしまいます。そのショックをやわらげるため、貝の生理活動を抑制する「仕立て」という作業が行われます。

水の流通しにくい特殊なかごにアコヤ貝を長時間入れておくと貝の活力が抑制されて、生殖巣の発達も抑えられ、結果的にその活力が抑制されます。こうして挿核手術のショックにも過剰の反応をしめさなくなります。「仕立て」は養殖工程の中でも最重要工程のひとつです。

挿核手術 核と、外套膜より取り出したピースを貝に入れる作業です。品質の差を決める重要な作業で、繊細でデリケートな技術が要求されます。

1. 専用の器具(開口器)で貝殻を少し開け、貝台に乗せます。
2. へらで左右をかき分けて内臓部分が見えるようにし、表面をメスで少し切ります。
3. <切り口から生殖層の中まで、メスで導入路を作ります。それに沿って、先にピースを送り込み、次に核を入れます。ピースは核に密着するように入れます。 貝を傷めないよう、すばやく行うことが重要です。
養生 手術後30日前後、養生かごに入れて、手術後の貝の体力回復を待ちます。水温26度以下で2〜5メートルのところにつるされます。 この間、手術に耐え切れなかった貝は死亡したり、脱核したりしてしまいます。
養殖

沖出し&
海事作業
養生機関が終わり、沖合いの漁場に移動することを「沖出し」といいます。パールネット等に入れ、潮流のあるところにつるします。 挿核手術後の貝の養殖期間は、一般的に半年から2年位です。(核のサイズや漁場によって異なります)。

この間、海の上で行われる様々な仕事を「海事作業」といいます。

+++海事作業の主な例+++

★貝掃除
フジツボや海草が付着すると成長が妨げられるので、絶えず取り除く作業をしなければなりません。

★塩水処理
貝殻に孔をあける付着動物を、濃い食塩水の浸透圧を利用し、駆除します。
浜揚げ 真珠を採取することを「浜揚げ」といいます。12月から1月にかけて行われます。これは寒い時期になると真珠に「てり」が出てくるためといわれています。

(10月頃、試験むきをして巻き貝合をチェックし、巻きがわるければ来年まで養殖を続けます。)

採取されたパールは次のように分類されます。

1.

浜揚げ珠(はな珠、きず珠、しみ珠)
2. くず(商品価値のない珠)
3. しら珠(核のみ)
4. ぶんど珠(稜柱層真珠)
5. ケシ珠(ケシ粒のように小さく、人口核のないもの)

アコヤパール養殖業者の一年(愛媛県の例)
1月 正月といえども、毎日続くシケ(荒波)にも負けず、 貝の「浜揚げ」を行います。一月の第2週から始まる入札会へ向けて、夜は真珠の選別作業をします。 加工業者との直接取引(入札会以外)も活発になります。
<2月〜3月 ようやく入札会が終わるころ。加工業者へ販売しないでおいた商品は、穴開けをして自分のところで加工、もしくは外部へ依頼するなら加工工場へ送ります。

また、海水温度を見ながら年末から行っている貝の「仕立て」に忙しい頃です。
貝の挿核手術も始まります。
4月〜5月 挿核手術も、いよいよ大詰め。この時期は家族総出でも人手が足りず、専門の挿核のプロを雇います。(一人約500個から800個の手術をしても、10万個以上の挿核技術は約一ヶ月要します。 )

手術の後はしばらく内海において「養成」し、貝が元気になったのを見計らって、外海へ移します。
6月〜9月 母貝養殖業者は、貝の産卵と同時に稚貝採苗が始まると、その出来栄えにも気をつかわなければなりません。

このころになると、海水温度が上がり、真珠を巻くには良い状況になります。しかし青草などの海草が貝に付着て巻きを阻害するため、週に一度はこれを取り除く作業(貝掃除)をしなくてはなりません。

(昔は手作業でしたが、今は機械が使われています。機械による掃除とマッサージ効果で真珠養殖の効率は大きく上がりました。)
10月 母貝の買付けが行われます。
11月 真珠品評会が行われます。(全養殖業者が参加して、無作為に抽出した100個の貝から取り出した真珠のでき栄えを一同に展示し、その年の最優秀者をたたえるものです。)
12月 越物(前年に挿核した貝=養殖期間21ヶ月)の浜揚げと、その入札会が行われます。(数量的にはあまり多くありません)

※代表的なアコヤ貝は、海底(10メートルまで)の岩礁地帯で、水温20度〜26度の所に生息しています。 水温13度以下になると真珠層は生成しないので、日本では水温の低くなる12月ごろから、浜揚げを行っています。 7度以下になると貝は死んでしまいます。寿命は10年といわれています。
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