「オルロフ」は、18世紀、オルロフ公からロシアの女帝エカテリーナに贈られたという193カラットのダイヤモンドです。かすかにブルーががったまばゆい輝きで、「リージェント」にも負けないほどの美しさを誇っています。
「オルロフ」はもともと、インドのヒンドゥー教寺院の偶像の目にはめこまれていたといいます。この巨大なダイヤモンドに魅せられたフランス人兵士が、ヒンドゥー教徒に改宗して偶像に近づき、ある嵐の夜、偶像の片目から盗んでしまったのだとか。あるイギリス人がこのダイヤを購入、そしてユダヤ人宝石商に渡り、やがてオルロフ公の手に渡りました。
オルロフ公は女帝エカテリーナの愛人だったのですが、女帝の不興を買って遠ざけられていました。彼は全財産をはたいてこのダイヤを買い、彼女に献上します。エカテリーナ女帝は感謝して、このダイヤモンドを「オルロフ」と名づけ、オルロフ公への怒りもおさまりました。しかし、オルロフ公が望んだ、愛人としての地位や政治的権力は二度とは戻ってきませんでした。失意に満ちたオルロフ公は、女帝の死後、自らも発狂して死んでしまいます。
このダイヤモンドにまつわるまた別の話では、ナポレオンがモスクワに遠征したとき、「オルロフ」はクレムリンのある僧侶の墓に隠されていました。それを知ったナポレオンは、兵を連れてその墓へ向かいます。兵士が墓の中の「オルロフ」を手にとろうとすると、僧侶の幽霊が現れ、彼らに呪いをかけたとか。驚いたナポレオンたちは、ほうほうの体で逃げ出したといわれています。死後もなお執着が消えないほど、「オルロフ」には魅力があったのでしょうね。
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